養育費の未払いに備える
「公正証書」が
子どもを守る理由
養育費は、子どもが安心して成長していくために必要な「権利」であり、
それを支えるのは親としての「義務」です。
養育費の支払いが止まるとどうなる?
「毎月払う」と言っていたはずなのに、突然支払いが止まり、連絡も取れなくなる──。
そんな相談は決して少なくありません。
特に影響を受けるのは子どもです。 進学費用、塾代、習い事、そして日々の生活費。 養育費が予定どおりに入らないことで、将来の選択肢を狭めてしまう可能性もあります。
そしてもうひとつ、精神的なダメージも見逃せません。
「信じて任せたのに裏切られた」 「やっぱり口約束だけじゃダメだった」そんなふうに、自分を責めてしまう方も多くいらっしゃいます。
口約束だけでは限界がある理由
たとえ養育費の支払い義務が法律で定められていても、相手が払わない限り、請求には大きな手間と時間がかかります。
実際にあったケースでは、
- 離婚時に「毎月5万円払う」と言われたため、書面は作らずに口約束のみで合意
- 半年後に支払いがストップ
- 内容証明郵便で請求しても反応がなく、弁護士を通じて訴訟を提起
- 相手は「そんな約束していない」と主張
- 最終的に判決が出るまでに数か月を要した
ということもありました。
このようなケースでは、たとえ勝訴しても、差押えまでにはさらに手続きが必要です。
そのうえ、差押えをするためには相手の勤務先や預金口座などの情報を把握しておく必要があり、 これを調査するのにも時間と費用がかかります。
「ここまでやっても、本当に払ってもらえるのか…」 と心が折れてしまう方も少なくありません。
公正証書にしておくことで得られる安心
「公正証書」とは、公証人という法律の専門家が作成する、法的に効力のある書類です。
なかでも重要なのが「強制執行認諾文言(きょうせいしっこうにんだくもんごん)」。 これが入っていれば、相手が養育費を滞納したとき、裁判をしなくても差押えができるのです。
さらに公正証書を作ることは、相手にも大きな心理的プレッシャーを与えます。
本気で支払う覚悟がある人ほど、公正証書の作成に同意してくれる傾向があります。
実際、当事務所でも公正証書を作成された方から「支払いが止まった」という相談は、非常に少数です。
公正証書にしたくない相手をどう説得する?
「そんなの必要ないよ」「信頼してるのに、書面に残すなんて」と、作成に消極的な方もいます。 ですが、公正証書を作っておくことは、実は支払う側にとってもメリットがあるのです。
それは、養育費の支払金額や期間をあらかじめ明確にしておくことで、後からトラブルになることを避けられる点です。
たとえば、収入が上がったからといって、当然に養育費が増額されるわけではありません。 また、口約束のままだと「もっと払って」「そんな約束はしていない」と、後から揉めることもあります。
金額・期間・支払い方法などを最初にきちんと決めておくことで、双方にとって安心な土台となります。 面会交流などの取り決めも同時にできるので、将来のトラブルも予防できます。
感情的なやりとりに発展させないためにも、「将来のためにお互いのため」と伝えることが効果的です。
公正証書作成時の
ポイント
- 強制執行認諾文言を必ず入れる これがなければ、差押えなどの強制力は発生しません。
- 養育費以外の支出も明記する
- 医療費
- 大学進学時の学費
- 塾や習い事の費用 といった特別な出費についても、明確に記載しておくことが重要です。
- 面会交流や連絡先通知義務の条項も検討する こちらは別記事で詳しく解説していますが、 離婚後のトラブル防止のためにも、これらの取り決めを文書にしておくと安心です。
まとめ
養育費は、親の「好意」や「経済的余裕がある場合に払うもの」ではありません。
これは、親の義務であり、子どもが自分と同等の生活水準を保てるように支える責任でもあります。
法律上、親には「生活保持義務」があり、これは単なる扶養義務とは異なります。
最低限の生活を保障するのではなく、自分の生活と同程度の生活を子どもにも保障する義務です。
つまり、非監護親(子どもと一緒に暮らしていない親)であっても、自分の生活水準を落としてでも、養育費をきちんと支払うことが求められているのです。
子どもの成長や将来を守るために、親として果たすべき当然の責任といえるでしょう。
「信じていたのに養育費が止まった…」 そうならないために、離婚時にしっかりとした準備をしておくことが何より大切です。
養育費の公正証書は、 “自分と子どもの未来を守るための最善の準備”。
「払われなくなったときに備える」ではなく、「払い続けてもらうための安心材料」でもあるのです。
感情が落ち着いている今だからこそ、冷静に話し合い、書面に残しておきましょう。